最低賃金引き上げが工務店経営を直撃

先日、弊社に一枚のファックスが届きました。

この数字を見て、「さらに厳しい2極化が加速するな…」と感じました。中小工務店は、単なる人件費の上昇だけではなく、顧客の購買力の低下、採用・教育コストの増加など、複数の課題が一気に押し寄せています。
これまで通りの属人的な営業や、中途半端な価格戦略では、利益を安定して残すことができなくなった――そんな危機感が高まりました。
そこで今回は、最低賃金上昇をきっかけに改めて見直したい「高付加価値型・ローコスト型の二極化戦略」、そして第三の選択肢まで含めた営業体制整備と経営改善のヒントをお伝えします。
最低賃金上昇が中小工務店経営に与える影響
最低賃金の上昇は、施工現場に限らず、営業や事務といった間接部門のコスト構造にも影響を広げています。これまで「なんとなく」で積み上げてきた固定費を、根本から見直す時期に来ているのです。
一方で顧客の視点に立つと、最低賃金は上昇するとしても物価高と実質賃金の低下のダブルパンチで、家づくりへの心理的ハードルは上がり続けています。「今じゃないかもしれない」「中古住宅で十分」「新築なら安い建売かな?」と考えるお客様が増える中で(すでに対応済みかとは思いますが)工務店側も戦略の再構築と社内体制の立て直しが急務になっています。
全国的な最低賃金上昇とその背景

最低賃金は全国平均で6%超の引き上げ。今後も政府の方針として上昇傾向が続くと見込まれています。背景には慢性的な人手不足や賃金格差の是正、国際競争力維持を狙った所得改善政策があります。
「賃金を抑えて経営を守る」という古い発想では、もはや通用しません。中小工務店は、最低賃金上昇を前提とした利益構造の再設計が必須です。給与額の調整にとどまらず、施工・営業・事務すべての効率化、外注や仕入れ先との交渉、商品戦略の見直しなど、利益を守るための打ち手が求められています。
実質賃金低下による顧客購買力の変化
名目賃金が上がっても、物価がそれ以上に上がれば実質賃金は減ります。顧客に残る可処分所得は縮み、月々の返済額や初期費用に敏感になる傾向が強まります。だからこそ「分かりやすさ」と「納得感」が、今まで以上に重視される時代になったといえます。
高価格帯の顧客層であっても支出全体の見直しが進む中、家づくりに割く予算や優先順位は変わります。特に若い層は「投資」資金も別で考える傾向が出始めています。つまり単なる価格競争ではなく、長期的な価値や性能、将来の維持費削減といった付加価値を示し、納得してもらう提案力が営業現場に求められるようになってきているとも言えます。
雇用コスト上昇が収益構造に与える圧力
人件費の上昇は、現場の直接労務費だけでなく、営業・設計・事務といった間接部門にも及びます。特に属人的な営業やアナログな業務運営が残っている会社では、その非効率が利益を直撃します。
この状況で利益を守るには、単純な価格引き上げだけでは足りません。営業から施工、管理までの各プロセスを徹底的に見直し、営業の標準化、ツールのデジタル化、社内ルールの整備による効率化が欠かせません。
価格戦略の二極化―高付加価値型かローコスト型か
材料費や人件費が高止まりする中、ボリュームゾーンを狙う「中間価格帯」戦略は利益を出しにくくなっています。市場は既に「高付加価値型」か「ローコスト型」か、二つの方向へと振り分けられています。

中小工務店は、自社の強み・地域性・既存顧客層を冷静に分析し、どちらの戦略で勝負するのかを明確に選ぶ必要があります。その選択が、この先数年の存続や成長を左右することになります。
高付加価値型戦略の概要と成功条件
高付加価値型は、棟数を追わず、一棟あたりの粗利を高めるモデルです。ターゲットは富裕層や建替層、デザインや性能を重視する顧客層が中心。「価格」ではなく「価値」で選ぶ層なので、ブランドの信頼と提案の説得力が勝負を分けます。
成功の条件は、施工実績の積み上げとブランドストーリーの発信、営業スタッフの提案力強化です。デザイン・性能・サービスを一貫した価値として提供し、価格以上の満足感を感じてもらう仕組みを整えることが不可欠です。
ローコスト型戦略の概要と成功条件
ローコスト型は、一次取得層や子育て世代など価格重視層をターゲットにした薄利多売モデルです。規格住宅や標準仕様を徹底し、月々の返済額を明示して安心感を与えます。
成功のカギは、施工効率の最大化と商談期間の短縮。広告は価格を前面に出し、問い合わせから契約までのリードタイムを最短化します。営業フローと施工管理の効率化が、ローコスト型戦略の成否を左右します。
中途半端な価格帯戦略が危険な理由
中価格帯戦略は、見た目にはバランスが良さそうに見えますが、実際には価格競争に巻き込まれるだけでなく建売や中古住宅との比較のなかで競争力も低下し続けており、利益率も下がる傾向が顕著です。
結果として、集客が難しい、なかなか契約できない、棟数を確保しても利益が残らない、営業現場の負担ばかりが増える――そんな悪循環に陥ります。中小工務店が生き残るには、明確なポジションを打ち出し、戦略を選択と集中で強化する必要があります。
価格戦略を超えて共通して必要な営業基盤の整備
高付加価値型かローコスト型か、どちらを選ぶにしても、成果を安定させるには営業基盤の整備が欠かせません。属人的な営業手法では顧客体験にばらつきが出て、成約率や紹介率が安定しません。
営業ルールの統一、ツールの標準化、情報共有の仕組みづくり――これはどの戦略にも共通する「利益を守る土台」です。

効率化と標準化は、限られた時間で最大の成果を生む必須条件です。
属人営業から標準化営業への転換
中小工務店では、一人のトップ営業の力量に頼る属人的営業がいまだ多く見られます。しかし、人材流動化が進む中で、このスタイルは安定成長の足かせにもなります。
標準化営業への転換は、誰が担当しても同じ品質の提案ができる体制を作ることです。営業フロー、ヒアリング項目、プレゼン方法を統一し、安定した顧客体験を提供することで、成約率の底上げとブランドの一貫性も確保できます。
営業ルール・ステップ・マニュアルの統一化
営業ルールの明文化は、成果の再現性を高めます。初回面談からクロージングまでの流れを明確化し、誰でも同じ手順で進められる仕組みを作ることが重要です。
具体的には、初回面談で必ず聞く質問リスト、提案資料の構成、契約前の確認事項などをマニュアル化します。これにより、新人営業でも一定レベルの提案ができ、教育コストの削減にもつながります。
営業ツールの統一とデジタル化による効率化
営業資料や見積書、プレゼンフォーマットが担当ごとに異なると、顧客は会社全体の信頼に疑問を持ちます。ツールを統一し、ブランドの一貫性を保つことは顧客満足度にも直結します。
さらに、ツールのデジタル化は業務効率を大幅に改善します。クラウドで資料を一元管理し、常に最新データを全員が共有できる環境を整えれば、資料作成の時間を削減し、顧客対応に注力できます。
成功事例・ナレッジの社内共有体制
成功事例や効果的な提案は、担当者個人のノウハウで終わらせず、組織全体の共通ノウハウにすることが大切です。全員の営業力を底上げし、組織全体の成約率を安定させるためです。
共有の仕組みとしては、売れている営業の言語化、ツール化、定期的な営業会議での徹底化が有効です。新しい成功事例や改善案は即座に反映し、翌日から活用できる「生きたノウハウ」として全員に行き渡らせる仕組みを整えましょう。
第3の選択肢―フランチャイズ加盟という戦略
高付加価値型もローコスト型もこれから自社で取り組むには、ノウハウ的にも金銭的にも労力的にも難しいと感じる場合、第3の選択肢として検討できるのがフランチャイズ加盟です。私も営業支援で関わる中で、クライアントと一緒にFC加盟を検討するケースは少なくありません。

市場で実績ある商品やブランド、整備された営業・施工ノウハウを短期間で導入できるのはやはり大きな魅力です。自社単独での取り組みよりも他の加盟店の成功事例や失敗事例なども活用することができるので、より短期間・小労力で成果を安定化させることが期待できます。
フランチャイズ加盟のメリット
FC加盟の最大の強みは、即戦力となる商品とブランドを使える点です。本部が持つ売れる商品パッケージや販売実績を、そのまま営業に活かせます。共同仕入れによるコスト削減も期待できます。
さらに、成功事例や営業ノウハウ、研修なども本部から提供されます。自社単独でゼロから仕組みを作る必要がなく、教育コストの分散ができる点は中小工務店にとって大きなメリットです。
フランチャイズ加盟を検討すべきケース
FC加盟は全ての工務店にとって最適解ではありませんが、自社の商品開発力や教育体制が弱い場合や、ブランド構築に時間を割けない場合には有効な選択肢になります。
特に、集客の安定化や営業スタッフの早期戦力化を急ぐ場合、確立されたシステムを活用することは競合との差別化を一気に進める手段になり得ます。
注意点と検討プロセス
加盟には初期費用やロイヤリティ、本部との契約条件といった負担が伴います。また、ブランドが地域特性や顧客層に合うかも慎重に見極めなければなりません。
検討の際は、複数ブランドの比較や収支シミュレーション、本部サポート体制の確認が不可欠です。また営業支援が強い本部であることも重要です。建物のデザインや性能は一定水準が担保されていることが多く、最終的に売れるかどうかは営業支援の精度に左右されがちだからです。
最後に…
最低賃金の話からやや広がった内容になりましたが、国の方針や大きなトレンドは、時間をかけて確実に現場に波及してきます。だからこそ、一歩引いてその影響を深く考える時間を持つことが大切です。
中小工務店の経営は、待っていれば改善する時代ではありません。今こそ自社の立ち位置を明確にし、時代の変化に合わせた戦略を練るタイミングです。今回のコラムがその参考になれば幸いです。
