住宅ローン金利はなぜ上がる?住宅営業マンが知っておきたい金利変動の仕組み

前回のコラムでは、なぜ今、住宅営業マンにこれまで以上の金融知識が求められているのかについてお伝えしました。
お客様から、
「これから住宅ローン金利はどこまで上がるのでしょうか?」
「固定金利にした方がいいのでしょうか?」
と聞かれたとき、ただ「分かりません」と答えるだけでは、専門家として十分とはいえません。一方で、将来の金利を正確に予測できる人もいません。
だからこそ住宅営業マンに必要なのは、未来を当てる能力ではなく、「住宅ローン金利は何によって動くのか」を理解し、その理由をお客様に分かりやすく説明できることです。
今回は3回シリーズの第2回として、
- なぜ日本の住宅ローン金利は長い間低かったのか
- なぜ最近になって金利が上がっているのか
- 日銀は何を見て利上げを判断しているのか
- 変動金利と固定金利では何が違うのか
といった住宅営業マンが押さえておきたい基本構造を解説します。
金融市場の細かな専門知識まで覚える必要はありません。しかし、お客様から「なぜですか?」と聞かれたときに、その一段後ろまで説明できる状態にはしておきたいところです。
※なぜ今、住宅営業マンに金融知識が必要なのかについては、前回の記事もあわせてご覧ください。
【第1回】なぜ今、住宅営業マンに金融知識が必要なのか?住宅ローン金利上昇時代に求められる営業力
※第1回記事公開後に内部リンクを設定
なぜ日本の住宅ローン金利は長い間低かったのか
現在の金利上昇だけを見ていると、「最近になって住宅ローン金利が上がってきた」と感じます。しかし、そもそも日本は長い間、非常に低い金利が続いてきました。今起きていることを理解するには、まず「なぜこれまでが低かったのか」から理解する必要があります。
日本では長い間、物価がほとんど上がらなかった
1990年代以降の日本経済では、物価が上がりにくい状態が長く続きました。物価が下がったり、ほとんど上がらなかったりすると、企業は値上げがしにくくなります。売上や利益も伸ばしにくくなり、結果として賃金も上がりにくくなります。
そこで日銀は、景気や物価を押し上げるため、長期間にわたって金融緩和を続けてきました。金利を低くすることで、
- 「企業がお金を借りて設備投資をする」
- 「個人がお金を借りて住宅などを購入する」
- 「経済活動が活発になる」
という流れを作り、物価を安定的に上昇させようとしてきたわけです。日銀は2%の「物価安定の目標」を掲げていますが、その実現に時間がかかったため、低金利政策も長期化しました。
ゼロ金利、マイナス金利、長期金利を抑える政策まで行われていた
特に2016年以降は、日銀がマイナス金利政策を導入しました。さらに「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」と呼ばれる仕組みによって、10年物国債の金利についても低い水準になるよう、国債を大量に購入していました。
2024年1月時点でも日銀は、政策金利残高にマイナス0.1%を適用し、10年物国債金利についてもゼロ%程度で推移するよう国債を買い入れていました。
つまり日本では、
- 短期の金利も低くする。
- 長期の金利も低くする。
という非常に強い金融緩和が長期間続いていたわけです。
住宅ローン金利が長い間低かった大きな理由も、ここにあります。
なぜ最近、住宅ローン金利が上がっているのか

では、なぜその状況が変わったのでしょうか。大きな転換点になったのが、2021年以降に始まった物価上昇です。ただし、今回の物価上昇は最初から「日本経済が非常に好調になったから」起きたわけではありません。
最初のきっかけは海外からのコスト上昇だった
2021年以降、コロナ禍から世界経済が再開するなかで、世界的にエネルギーや原材料への需要が急増しました。一方で、物流や生産体制はすぐには元に戻らず、世界各地で供給不足が発生しました。
さらに2022年にはロシアによるウクライナ侵攻が起こり、原油、天然ガス、穀物などの国際価格が上昇しました。資源や食料の多くを海外から輸入している日本にとって、これは大きな影響があります。
実際、日銀も当時の日本の物価上昇について、国際商品価格の上昇や円安を背景として企業の原材料・調達コストが上昇し、それが消費者価格へ転嫁されていると分析していました。
つまり最初は、
- 海外の資源価格上昇
- 日本企業の仕入価格上昇
- 企業が値上げ
- 消費者物価上昇
という「コストプッシュ型」の物価上昇だったわけです。
円安も輸入価格を押し上げた
もう一つ大きかったのが円安です。例えば海外の商品が100ドルだとすると、1ドル100円なら1万円ですが、1ドル150円なら1万5,000円になります。
海外で同じ価格の商品を買っていても、円の価値が下がれば日本円で支払う金額は増えます。日本はエネルギー、食料、原材料など多くの商品を輸入していますので、円安は企業の仕入コストを押し上げます。
そのコストが企業努力だけで吸収できなくなれば、最終的には商品の価格へ転嫁されます。現在でも日銀は、為替円安が輸入物価を押し上げ、それが幅広い品目の価格上昇につながる可能性を重要なリスク要因として見ています。
海外から始まった物価上昇が、国内の賃金や価格にも広がってきた
ここが、今回の金融政策を理解するうえで非常に重要なポイントです。もし海外からの資源高だけで物価が上がっているのであれば、日銀は簡単には利上げできません。資源価格が落ち着けば、物価上昇も収まる可能性があるからです。
日銀が見ているのは「一時的な値上がり」ではない
例えば、原油価格が一時的に上がったことでガソリン価格が10%上昇したとします。これによって消費者物価が上がっても、原油価格が元に戻れば、その影響はいずれ薄れていきます。
こうした物価上昇だけを見て、「物価が2%を超えたからすぐ利上げしよう」とはなりません。日銀が重視しているのは、2%程度の物価上昇が持続的、安定的に続く状態になっているかです。
そのためには、輸入物価だけでなく、日本国内で賃金やサービス価格などが継続的に上昇していることが重要になります。
「賃金と物価の好循環」が政策転換のポイントになった
例えば、
翌年も賃金を上げられる。
こうした循環が生まれれば、海外の資源価格が落ち着いても、日本国内で物価が上昇する可能性があります。
日銀は2024年3月、「賃金と物価の好循環」を確認し、2%の物価安定目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況になったとして、マイナス金利政策とイールドカーブ・コントロールを終了しました。
つまり、物価が上がったから利上げしたというより、一時的な物価上昇から、賃金と物価が国内で循環する可能性が高まってきたため、超低金利政策を徐々に解除していると理解した方が実態に近いのです。
日銀は何を見て利上げを判断しているのか
お客様から「これから日銀はまだ利上げするんですか?」と聞かれることもあるでしょう。そのときには、「物価だけを見て決めているわけではありません」と説明できるようにしておきたいところです。
最も重要なのは2%程度の物価上昇が持続するか
日銀の大きな目標は、消費者物価の前年比上昇率を2%程度で安定させることです。ただし、先ほど説明した通り、一時的に2%を超えればよいわけではありません。
日銀は、
- 消費者物価
- 基調的な物価上昇率
- 賃金
- 雇用・人手不足
- 個人消費
- 企業収益
- 設備投資
- 為替
- 海外経済
などを総合的に見ながら判断します。
特に住宅営業マンには、「物価・賃金・景気」の3つを覚えておいてほしいと思います。
- 物価が上がっている。
- 賃金も継続的に上がっている。
- そして景気が大きく悪化していない。
こうした条件がそろえば、日銀は利上げしやすくなります。
反対に、物価上昇が落ち着き、景気や雇用が急激に悪化すれば、利上げを止めたり、将来的には利下げしたりする可能性もあります。
2026年時点でも、日銀は物価と賃金の動きを重視している
2026年7月の最新の展望レポートでも日銀は、人手不足が続くなかで、賃金と物価が相互に影響しながら緩やかに上昇する仕組みが維持されると見ています。また、基調的な物価上昇率についても、2026年度後半から2027年度にかけて2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準になると見込んでいます。
こうした経済・物価情勢を背景に、日銀は2026年7月31日、政策金利である無担保コールレートの誘導目標を1.0%程度へ引き上げました。
2024年3月には0〜0.1%程度だった政策金利が、2025年1月には0.5%、同年12月には0.75%、そして2026年7月には1.0%まで引き上げられています。
これが現在、住宅ローン金利にも影響を与えている大きな背景です。
変動金利と固定金利では、金利が動く仕組みが違う

ここは住宅営業マンが必ず押さえておきたいポイントです。「住宅ローン金利が上がっています」と一括りにするのではなく、変動金利と固定金利では、主に影響を受ける金利が違います。
変動金利は日銀の政策金利の影響を受けやすい
住宅ローンの変動金利は、銀行が設定する基準金利から、一定の優遇幅を差し引いて実際の適用金利が決まるのが一般的です。
例えば、
- 基準金利3.0%
- 優遇幅2.0%
であれば、適用金利は1.0%です。
この基準金利を決める際に関係するのが、短期の市場金利や銀行の資金調達コストです。その短期金利に大きな影響を与えるのが、日銀の政策金利です。
大まかな流れでいうと、
ということです。
ただし、日銀が政策金利を0.25%上げたから、すべての住宅ローンがその日に0.25%上がる、という単純な仕組みではありません。銀行ごとに基準金利の決め方や優遇幅、金利を見直すタイミングが違うからです。
固定金利は長期金利の影響を受けやすい
一方、固定金利は長期金利の影響を強く受けます。日本では代表的な長期金利として、10年物国債の利回りがよく使われます。
長期金利は、
- 「今後、日銀がどのくらい利上げするのか」
- 「将来インフレはどうなるのか」
- 「日本経済はどうなるのか」
といった市場参加者の予想も織り込みながら動きます。
そのため、日銀が実際に利上げする前から、「今後利上げされそうだ」と市場が判断すれば、長期金利が上昇することがあります。
つまり、
- 変動金利は現在の政策金利の影響を受けやすい。
- 固定金利は将来の金利予想まで先回りして動きやすい。
この違いは、お客様に説明すると非常に分かりやすいと思います。
「日銀が1%にしたから住宅ローンも1%上がる」わけではない
金利の話で注意したいのが、「政策金利=住宅ローン金利」と考えてしまうことです。両者には強い関係がありますが、そのまま同じ数字になるわけではありません。
銀行ごとの判断や競争も住宅ローン金利を左右する
銀行は住宅ローンだけを扱っているわけではありません。預金を集めたり、市場から資金を調達したりしながら、住宅ローンや企業融資を行っています。
そのため住宅ローン金利を決める際には、
- 市場金利
- 資金調達コスト
- 銀行の利益
- 信用リスク
- 他行との競争
- 顧客獲得戦略
など複数の要素が関係します。
例えば市場金利が上がっても、住宅ローン顧客を増やしたい銀行であれば、優遇幅を拡大して実際の適用金利の上昇を抑えることも考えられます。逆に、銀行の経営環境によっては金利を引き上げることもあります。
ですから、お客様に、
「日銀が0.25%利上げしたら、住宅ローンも0.25%上がります」
と断定するのは正しくありません。
「方向性」と「実際の商品金利」を分けて考える
住宅営業マンとして理解しておきたいのは、
- 政策金利が上がれば、変動金利には上昇圧力がかかる。
- 長期金利が上がれば、固定金利には上昇圧力がかかる。
という「方向性」です。
一方で、実際にお客様が借りる金利が何%になるのかは、各金融機関の商品条件を確認する必要があります。この二つを切り分けて説明できることが大切です。
今後、住宅ローン金利は上がるのか、下がるのか

ここまで読んでいただくと、「では結局これからどうなるのか」と思うかもしれません。これは、お客様が一番知りたいことでもあります。しかし、ここで大切なのは、未来の金利を断定しないことです。
金利が上がり続けると決まっているわけではない
例えば今後も、
- 物価が2%を超えて上昇する。
- 賃金上昇が続く。
- 景気も大きく悪化しない。
という状態が続けば、日銀がさらに政策金利を引き上げる可能性があります。
反対に、
- 景気が大幅に悪化する。
- 失業が増える。
- 賃金上昇が止まる。
- 物価上昇率が大きく低下する。
といった状況になれば、追加利上げを止めることも考えられますし、経済状況によっては将来的に利下げする可能性もあります。
2026年7月の展望レポートでも、日銀は原油価格、中東情勢、為替、海外経済など、複数の上振れ・下振れリスクを挙げています。
だから、「絶対に上がります」も、「いずれ下がります」も、どちらも断定することはできないのです。
営業マンがするべきなのは「予想」ではなく「判断材料の提供」
だから私は、住宅営業マンが金利予想をする必要はないと思っています。
むしろ、
「どこまで上がるかを正確に予想することはできません。ただし、今後の金利がどういう条件で動くのかは整理できます」
と説明できることの方が重要です。
そのうえで、
「○○さんの場合、仮に金利が1%上がった場合、返済額がどのくらい変わるか確認しておきましょう」
と資金計画へ戻す。
住宅営業マンの仕事は、金融市場の予想を当てることではありません。不確実な未来に対して、お客様が安心して判断できる材料を整理することです。
金利の仕組みが分かれば、お客様からの「なぜ?」に答えられる

今回お伝えした内容を、すべて暗記する必要はありません。住宅営業マンにまず理解してほしいのは、住宅ローン金利の裏側にある大きな流れです。
まずはこの流れを理解しておきましょう
これまで日本では、
という状況が長く続いてきました。
それが、
という流れへ変わってきたわけです。
この全体像が分かっていれば、
「なぜ最近金利が上がっているんですか?」
「なぜ日銀は利上げするんですか?」
「変動と固定では何が違うんですか?」
と聞かれても、単なる定型文ではなく、自分の言葉で説明できるようになります。
大切なのは、難しく説明することではありません
専門用語をたくさん使えば、お客様から信頼されるわけではありません。むしろ住宅営業マンに必要なのは、今回お伝えした仕組みを理解したうえで、お客様に合わせてできるだけ簡単な言葉に置き換えることです。
「未来の金利は分からない」
という事実を正直に伝える。そのうえで、
- なぜ金利が上がるのかは説明できる
- どんな場合に下がる可能性があるのかも説明できる
そして
「では、その変化が○○さんの住宅ローンにどのくらい影響するのかを考えましょう」
と話を進める。
ここまでできれば、住宅営業マンとして十分に価値のある金融知識になります。
次回はいよいよ実践編です。実際の住宅営業の現場で聞かれる、
「住宅ローン金利はこれからどこまで上がりますか?」
「固定金利にした方がいいですよね?」
「変動金利は危険ではないですか?」
「また金利は下がりますか?」
といった質問に対して、どのように答えればよいのか。お客様への回答例だけでなく、その回答の裏側にあるロジック、さらに「なぜ?」と聞かれたときの考え方まで具体的に解説します。
